「線維筋痛症」で障害年金を請求するときに注意すべきこととは?|浜松の社労士事務所

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コラム

「線維筋痛症」で障害年金を請求するときに注意すべきこととは?

2020.06.08

こんにちは! 今日は、「線維筋痛症」がテーマです。2020年6月5日東京地裁の判決があり、線維筋痛症の女性が障害年金の請求をしたところ、不支給の処分となったので、取消訴訟を提起したところ、この処分を取り消す判決が出されたところです。

聞きなれない病気ですが、中高年女性がかかりやすく、全身の筋・骨格系を中心とする組織の疼痛を主症状とし、うつ病、不眠、疲労感、過敏性大腸症候群などを併発する疾患です。厚生労働省の推計によると約200万人の患者がいるとされ、そのため「指定難病」にもなっていません。原因不明のこの病気。かなり前から医学界では問題となっていたようで、特にアメリカのリウマチ学会が1990年に診断基準を出しています。

今回は、まず、この病気がどんなものであるかを線維筋痛症学会の診療ガイドライン2017から引用し、解説していきます。

(1)線維筋痛症とは、どのような疾患か?

線維筋痛症とは、身体の広範な部位に原因不明の慢性疼痛と全身性のこわばりを主症状とし、随伴症状として、多彩な身体、神経・精神症状を伴い、いずれの徴候も慢性疼痛と同様に身体診察や一般的画像検査を含む臨床検査で症状を説明できる異常を見いだせない。症候学的には、特異なリウマチ性疾患のひとつであり、中年女性に好発し、生命予後に問題ないが、QOLおよびADLは著しく悪く、日本の有病率は、人口の1.7~2.1%と比較的頻度の高い疾患である。

(2)日本の線維筋痛症の性差・年齢分布はどうか?

2003年の厚生労働省研究班の全国疫学調査では、男:女=1:4.8 であり、調査時平均年齢は、約52歳(11~84歳)、推定発症平均年齢は、約44歳(11~77歳)。

(3)線維筋痛症の病因・病態は、どこまで分かっているか?

過去の論文から、発症に関連のある因子は、以下の通り。

1. 身体的ストレス、及びこれらの疾患: 外傷、出産、各種ワクチン、変形性関節症、全身性エリトマトーデスなどの膠原病リウマチ性疾患、心疾患、片頭痛など。

2. 心理社会的ストレス、及びこれらの疾患: 抑うつ気分、双極性障害、不眠、不安など

3. 遺伝的要因:いくつかの候補遺伝子の変異及びミクロRNAを含む発言量の差

4. その他:炎症、サイトカイン、ケモカイン、アルコール、肥満、栄養状態、低ビタミン血症など

結論としては、はっきりとしたものは、分かっていない。

(4)線維筋痛症の発症の契機には、何があるか?

これまでの報告では、以下の通り。

●外傷、特に交通外傷による頸椎損傷
●慢性心身的ストレス、心理・社会的な情緒的ストレス、
外科的手術(脊椎)
●身体疾患、うつ病、不安障害

痛み出現の契機として、環境の変化、睡眠障害、妊娠・出産、更年期障害、仕事・就職・転職など。身体的損傷が発祥の契機となったものには、疾患の存在、手術、外傷などがある。

(5)線維筋痛症の臨床症状は、どのようなものか?

●疼痛: 全身痛 91.7%  関節痛 82.0%  筋肉痛 70.9%

●リウマチ膠原病症状: こわばり 63.7%  乾燥症状 49.3%

●身体症状: 疲労 90.9%  腹部症状 44.2% 便通異常 43.1%

●神経症状: 頭重感、頭痛 72.1% しびれ感 64.8% めまい 44.6%

●精神症状: 睡眠障害 73.1% 不安感 64.3% 抑うつ気分 60.5%

(6)線維筋痛症の診断には、どの基準を用いるか?

米国リウマチ学会の1990年基準を用いる。
a) 広範囲にわたる疼痛の病歴(右左半身、上下半身、頸椎、前胸部、胸椎、腰椎)

b) 指を用いた触診により、18箇所の圧痛点のうち、11箇所以上に疼痛を認める

広範囲な疼痛が3ケ月以上持続し、上記a)b)の両基準を満たす場合、線維筋痛症と診断する。

(7) 線維筋痛症と併存する疾患は?

原発性線維筋痛症で最も多い併存疾患は、非特異的胸部痛、気分障害、脊椎症、椎間板障害など。続発性線維筋痛症で最も多い基礎疾患は、本態性高血圧、脂質代謝障害、冠動脈アテローム性動脈硬化症、精神障害。

1100人の成人線維筋痛症例における医療記録調査では、50%以上の患者が7つ以上の慢性疾患を併存していた。慢性関節痛が最も多く(88.7%)次いで、抑うつ(75.1%)片頭痛・慢性頭痛(62.4%)及び不安障害(56.5%)。過敏性腸症候群、間接性膀胱炎、緊張性頭痛ともしばしば合併症状を起こす。

(8)線維筋痛症の重症度評価には、何があるか?

厚生労働省線維筋痛症研究班によって作成された「重症度分類試案」

●ステージⅠ:米国リウマチ学会診断基準の18か所の圧痛点のうち11か所以上で痛みがあるが、日常生活に重大な影響を及ぼさない。

●ステージⅡ:手足の指など末端部に痛みが広がり、不眠、不安感、うつ状態が続く。日常生活が困難。

●ステージⅢ:激しい痛みが持続し、爪や髪への刺激、温度・湿度変化など軽微な刺激で激しい痛みが全身に広がる。自力での生活は困難。

●ステージⅣ:痛みのため、自力では体を動かせず、ほとんど寝たきりの状態に陥る。自分の体重による痛みで、長時間同じ姿勢で寝たり座ったりできない。

●ステージⅤ:激しい全身の痛みとともに、膀胱や直腸の障害、口の渇き、目の乾燥、尿路感染など全身に症状が出る。普通の日常生活は不可能。

(9)診断書発行についての基本的考え方は?

線維筋痛症は、多様な疼痛が主に頸部から肩甲骨周囲や背部に始まり、全身の筋・関節周囲などに痛みを伴う疾患である。女性に多く、米国リウマチ学会が1990年に発表した分類基準では、3か月以上持続する全身にわたる痛みがあり、18箇所に設定されている圧痛点のうち11箇所以上の圧痛点を確認できるものを線維筋痛症と診断する。

疲労感、易疲労性、睡眠障害、慢性疼痛、痙攣性大腸炎、腫脹感(こわばり感)、しびれ感、不安又は緊張による症状の影響、天候による症状の影響、肉体活動による症状の影響がみられる。

また、頭痛、抑うつ、疲労、睡眠障害、過敏性腸症候群、意識消失発作などは、随伴する症状として診断の際に参考とされる。

現在多くの研究者によって線維筋痛症の病態が研究されているが、現在でも病態は明らかになっていない。

脳脊髄液中に、発痛物質として知られるサブスタンスPが増加し、セロトニン前駆体やその代謝物の減少が指摘され、疼痛に関する情報伝達の異常がが線維筋痛症の原因と考えられている。

しかし、診断書の発行という行政上司法上の正確な判断を求められる際に、主な症状が自覚的なもので他覚的な所見が乏しい状況では、医師としては、不確定な判断を示すことは適切でないと考えられる。従って、以下のような考え方において書類を作成すべきである。

障害年金の裁定にあたっては、本人の自覚的な痛みのみでは適応されない。永続的な障害の存在の証明には、専門医による当該関節周囲のレントゲン上明らかな骨委縮またはMRI検査や超音波検査による明らかな筋委縮などの他覚的な証明が必要である。「痛み」だけの障害については、専門領域を異にする複数の専門医での合議による判定が必要である。

以上がガイドラインの概要(抜粋)になります。

これを踏まえて、医療機関で「線維筋痛症」と診断され、日常生活や就労に支障をきたすことがあれば障害年金を請求できます。

診断書は、様式第120号の3(肢体)を使用します。

診断書(肢体)a

診断書の表面の⑨「現在までの治療の内容、期間、経過、その他参考となる事項」の欄に、厚生労働省の研究班の重症度分類試案のどのステージにいるかを記入してもらいます。

又は、以下の「線維筋痛症 照会様式」に18箇所の圧痛点のうち何か所に疼痛があるか、重症度分類試案のステージでは、ⅠからⅤのどのステージにあるかを記載してもらいます。ステージⅣ~Ⅴは障害等級1級、ステージⅡ~Ⅲが障害等級2級、ステージⅠが障害等級3級と推認されます。

線維筋痛症の照会様式

医療機関から、以上の診断書や照会様式を記載してもらったら、「受診状況等証明書」「病歴就労状況等申立書」「障害年金の請求書」を記載し、お近くの年金事務所に提出します。

特に「病歴就労状況等申立書」では、生活にどれ程支障があるか、仕事をする上でどれ程困難を伴うかを具体的に記載します。

場合によっては、後から追加資料として、レントゲン写真とか、MRI検査結果の写真とか、超音波検査の写真とかを求められることがあるかもしれません。その時は、医療機関にお願いして取得し、日本年金機構に提出することになります。

以上が大まかな注意点になります。参考としてください。

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