神経症(適応障害、不安障害、強迫性障害、パニック障害)は、本当に障害年金の対象にならないのか?  その1|浜松の社労士事務所

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コラム

神経症(適応障害、不安障害、強迫性障害、パニック障害)は、本当に障害年金の対象にならないのか? その1

2020.11.22

今日は、精神疾患の障害年金の認定において、本当に神経症(例えば、適応障害、不安障害、パニック障害、強迫性障害など)は障害年金の認定の対象にならないかを、社会保険審査会の裁定事例をもとに考えていきます。

「障害認定基準」では、「神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象とならない。」とし、例外として、「その臨床症状から判断して、精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う。」となっています。

まず、平成24年(厚)第362号の 平成24年12月26日裁決の「強迫性障害」の事例を見ていきます。以下は裁定書からの引用です。

診断書によれば、障害の原因となった傷病名は、「強迫性障害」ICD10コードF42 とされ、神経症圏の傷病と認められる。「その病状又は状態像として、抑うつ状態(思考・運動制止、憂鬱気分)、幻覚妄想状態等があるとされ、具体的には強迫思考、確認行為が強く、不安、抑うつ気分、行動制限を伴い、何事にも時間がかかるため、作業の遂行に支障をきたし、また日常生活にも支障をきたす。」とされ、障害認定日時点における障害の状態は、「強迫観念を中核とし、不眠、抑うつ気分、不安などがあり、統合失調症ないしはうつ病の病態を示していなかった」と判断する。裁定請求日時点の障害の状態も障害認定日時点と同様に、「神経症の主要症状である、妄想的強迫観念であり、統合失調症又は躁うつ病の病態が認められず、精神病の病態を呈していないとする」のが相当である。この理由により再審査請求が棄却されています。

つまり、医師の診断書では、精神病の病態(統合失調症やうつ病の病態など)が認められないため、不支給という結果になっています。

 

次に、平成21年(厚)第404号 平成22年5月31日裁決を見ていきます。以下は引用です。

「昭和40年の法改正により、観念的には、神経症を含すべての精神疾患が対象となったが、……..神経症については、通常その病態が長期に渡って持続することはないと考えられることから、原則として障害の状態と認定しないものとする。」(40年通達)という取り扱いがされることとなった。」

そして、「神経症に対する認識は、精神疾患を『心理的要因による神経症』と、『それ以外の統合失調症やそううつ病等の内因性精神病』、『身体疾患、外傷などの外因による症状性を含む器質性精神障害』、『中毒性精神病』などを明確に分けること可能且つ容易であることを前提として、当該患者がその疾患を認識して、それに対応した対応を取ることが可能である、言わば、患者がその状態から引き返し主体的に治癒に持ち込むことが可能であるが、(「自己治癒可能性」という)一方、症状の発現やその症状が続くことによって引き起こされる患者本人が心理的あるいは現実的満足を得ることもあり(「疾病利得」という)、家族の同情を得、また嫌な仕事から逃れることができる保護的な環境がなくなれば神経症の症状が消失することがしばしば観察されるという、神経症治療における臨床経験に基づくものであり、典型的な神経症に自己治癒可能性及び疾病利得が見られることは、現在でも否定できないことであると認められる。」

(中略)「精神病の病態を示しているもの」の定義は、必ずしも明確ではないが、「統合失調症ないし躁うつ病と共通の臨床症状に限らず、精神疾患が示す臨床症状を呈し、それによる精神障害の程度が『精神病水準』にある」とするのが望ましい。

(中略)「精神障害の尺度の基準は、精神障害によって、日常生活・社会生活がどれだけ影響され、阻害されるかという実用上の視点にたち、より社会性を重視したものであり、神経症水準では、さまざまな症状を訴えているが、現実検討能力は比較的保たれており、自らの力でその疾病を治す能力があるが、精神病水準では、現実検討能力が重篤に侵され、自らの力でその疾病を治す力がその分阻害され、その結果、典型的な精神病の場合と同様に独力で日常生活・社会生活を営むのに多大な困難を生じているというものである。」

(中略)「以上のことを踏まえて、請求人の当該傷病が対象傷病であるかどうかを検討すると、現在のところ、うつ病に伴う典型的な臨床症状を呈していないものの、当該傷病は、いわゆる内因性精神病であるうつ病との類縁が疑われ、不潔、確認恐怖といった当該傷病に係る症状を訴えるようになり、請求人の生来の知的障害(精神遅滞)という脆弱性もあって、自己治癒可能性に伴う葛藤もなくなっているのであるから、それは、神経症の本質である、自己治癒可能性が極めて疑わしいと言わざるを得ない。」

(中略)「本件の障害状態は、病状として、軽度の精神遅滞と強迫行為が指摘され、数時間から1日に及ぶ入浴や手洗いが認められ、これを中断すると不安、興奮を呈する、とされ、(中略)このような状態は、日常生活が著しい制限を受けるものに相当する程度に至っているというべきである。(略)以上のことから、障害等級2級の障害給付が支給されるべきである。」とした。

以上をまとめると、

① 「精神病の病態を示しているもの」とは、「精神疾患が示す臨床症状を示し、その程度が精神病水準にある」こと

② 「精神病水準」とは、「自己治癒能力が阻害され、独力で日常生活や社会生活を営むのが困難な状態」であり

③ 本件は、強迫性障害という神経症の範疇ではあるが、自己治癒能力が極めて困難であり、精神病水準にあるといえる

④ したがって、原則的には障害年金の対象にならないが、精神病の病態を示していると判断されるので、対象になる。

という結論になります。

以上です。 次回は、別の事例を紹介いたします。

 

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