神経症(適応障害、不安障害、強迫性障害、パニック障害)は、本当に障害年金の対象にならないのか?  その2|浜松の社労士事務所

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コラム

神経症(適応障害、不安障害、強迫性障害、パニック障害)は、本当に障害年金の対象にならないのか?  その2

2020.11.23

前回は、強迫性障害において、再審査請求の結果、障害基礎年金2級が認められた事例を紹介しました。

その要点は、「神経症の本質である自己治癒可能性が極めて困難と判断された場合は、精神病の病態を示していると評価され、障害年金の認定の対象となりうる。」ということでした。(平成21年(厚)第404号)

今日紹介する事例は、平成25年(国)第1069号 平成26年12月25日裁決 で、再審査請求が棄却された事例です。

本件では、うつ病として障害基礎年金1級が認められたにもかかわらず、初診日と障害認定日が申請人の主張と違うということで、再審査請求まで行った事例です。初診日の医証が不安障害・パニック障害になっていたため、うつ病と診断された日を初診日とされたことから、不服申し立てをしたものと推察されます。

最初の医証は、「パニック障害」と診断され、「夜叫んだり、動悸は夜間を中心におき、寝づらいという主訴にて当院受診。その後バス旅行の際、突然呼吸困難、動悸に襲われ、死んでしまうのではないかという恐怖に襲われ、その後も乗り物を利用する都度同様の発作に見舞われたため、当院に再度の受診となった。」とされ、また別の診断書では、「不安障害(ICD10コード:F41.1)」とされ、「(中略)両親があいつで亡くなる等、日常生活における心理的負荷が重なったが、〇〇年ころより夜間に奇声を上げたり、動悸・呼吸困難等の身体化を伴う不安症状が認められ、近医を受診。症状の改善なく〇年〇月当院受診となった。」とされていました。

この裁決では、最後にこう述べ、神経症を認定の対象としない理由を記述しています。以下引用します。

「ICD10コード(国際傷病分類)において、精神病の病態を呈していない神経症圏は、社会的に又は精神的に苦しい出来事が直接的間接的な引き金となって発症し、その症状が意識されているにせよ、無意識に行われているにせよ、生物学的に原始的な状態あるいは病的状態に退行することによって、内的葛藤やパニック、不安を解消するものとされており、ある意味での疾病への逃避とも考えられる。このような神経症圏の傷病を障害認定の対象外とすることについては、これまでの精神医学的な知見に基づいてなされているものと思料され、その主な理由を見ると、障害の原因となっている傷病が、精神病の病態にあるか否かは、具体的には精神病圏(レベル)でなく、神経症圏(レベル)にあるという意味で、それは、当該患者がその疾病や病状について十分認識しており、それに応じた対応をとることが可能であると判断され、重症の障害から引き返し得る状態にあると考えられるからである。」とし、

「換言すれば、精神科領域では、特異な『疾病利得』という概念もあり、これはいわゆる仮病とは異なる概念であるが、症状の発現やその症状が遷延することによって引き起こされる心理的あるいは現実的な満足感のことを意味するとされており、例えば、一見重篤な障害によって家族の同情や共感を得ることができたり、仕事や苦しい現実から逃避できたりする利得をさすものである。

神経症は、いわば、引き返すことが可能な病態であり、機能的な変化としてとらえ得るものであるので、自らがその状態から脱することができる病態とされ、自らが引き返せるような状態を障害給付の対象とすることは、自らがそれを治す努力を喪失させ、生じている障害を継続、増強させ、結果的に非可逆的な状態に固定させえる危険性も含んでいるものと考えることができる。そうであるから、障害給付については、精神病態を示し、自らの力では治しえないものにその対象を限ることが相当であると、一般的に考えられている。

このような考え方に基づき、認定基準は、神経症圏の疾患については、認定の対象外としたものと思料されるところ、当審査会においてもそのような考え方は、基本的に妥当なものと認めているところである。」

以上をまとめると、神経症は、自らその状態から脱することができる病態(いわゆる『自己治癒可能性』がある)ため、障害年金の認定の対象とはしない ということです。

次の事例は、平成26年(厚)第1281号 平成27年10月30日裁決 です。本件は、強迫性障害、記憶障害、解離性障害、妄想障害により障害の状態にあるとして、障害認定日請求をしたものの、不支給処分となったため、再審査請求まで及んだ事例です。

裁決の中でこう述べています。以下引用です。

「障害の原因となった傷病は、強迫性障害(ICD10コード:F42.2)とされ、………. 障害認定日及び裁定請求日とも、『統合失調症及び統合失調型障害及び妄想性障害』又は『気分(感情)障害』の病態(いわゆる精神病の病態)を示していない」としたが、「強迫性障害の重症度において、精神病水準の病態にあるものと診断している」とした。更に、「障害認定日ころの病状又は状態像として、強迫観念、強迫行為制縛状態の他、幻覚妄想状態等精神運動興奮状態及び混迷の状態、発達障害関連症状、過度の論理性、自己中心性といった多彩な病状が指摘され、」「裁定請求日ころには、通常の薬物療法および精神療法が奏功しないのは、本人の病態の深さ、症状の重症さに由来するものものであり、精神病水準の病態にあると考えられる。」そして、「強迫性障害は、その病態に照らして、特に重症例においては、必ずしもすべてが心因的なものであって、神経症にみられる自己治癒可能性疾病利得があるものとは考えられないことも併せ考慮すると、障害認定日における病状は、精神病の病態を示していると考えるのが相当である。」

そして、「その具体的な程度、症状としては、確認行為が強く、人とすれ違うと知らぬ間に身体が接触して、相手を転倒・転落させたのではないかとの疑念にとらわれ払拭できず、理性的なそんなはずはないと考えるが、自己に中でも修正不能で、半ば妄想に近い状態となるため、その場所を往復して確認し、10~20分程度の通勤に6時間以上かかるようになり、平成〇年に退職となり、日常生活にも多大な支障があり、外出すら困難となり、自宅閉居の状態に陥り、この間の通院も困難で、数か月間受診不能となった一方で、感情の抑制に難があり、些細なことで、易刺激性となり、興奮し攻撃的になることがあり、また不潔恐怖のため、他人に接近されることを警戒し、周囲に対し威嚇的に振る舞うことも多く、確認行為を妨げられることによりパニックに陥ることも多いため、対人関係トラブルも多く通行人等と路上で押し問答、口論となることも再々あり、平成〇年〇月では、就労不能で、日常生活に重大な支障が認められ、極めて重度の強迫性障害と診断した。(中略)」

以上のことから、「申請人には、障害認定日を受給権発生日とする、障害等級2級の障害給付を支給しなければならない。」とした。

本事例をまとめると、

①請求人の強迫性障害は、統合失調症や気分(感情)障害の病態を示してはいない。

②しかし、極めて重度の強迫性障害であり、神経症に特徴的な自己治癒可能性や疾病利得は考えられない。

③通常の薬物療法や精神療法も効果がないことも考慮し、精神病の病態を示していると判断できるため、障害年金の認定の対象となる。

④本件の障害の状態は、障害等級2級に該当する

本件は、重度の強迫性障害で、認定の対象となり、障害年金が認められた事例です。

以上

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